久しぶりに本の話を。

といっても、読書はほとんどいつもしています。
最近はもう日系のお店で日本語の古本を買うこともなくなったので、もっぱらキンドルでこちらの本を読んでいます。

とはいえ、あまり重い題材のものを読む気になれず、最近も刑事ものを中心に読んでいましたが、ちょっと前にはバイオグラフィー、いわゆる個人の伝記のものを読みました。


今年は野球ファンのデイブと一緒にメジャーリーグの試合をよく見ているのですが、わがトロント、ブルージェイズのエース・ピッチャーの R.A. ディッキー投手の本「Wherever I Wind Up: My Quest for Truth, Authenticity and the Perfect Knuckleball」を紹介します。




彼は現役の先発投手(現在38歳)で、今年ブルージェイズに移籍してきたばかりですが、いまでこそエースの位置にいますが、たった数年前まではずーっとマイナーリーグでプレイをしている選手でした。

彼のこの伝記は普通の選手のものとはかなり違っているのではないかと思います。
というのは、輝かしい功績を記したものではないからです。

幼いころに両親が離婚、8歳のころ、ベビーシッターから性的被害にあい、その後年上の青年からも同じように性的被害を受けています。

経済的にも恵まれていたわけではなく、それでも持ち前の運動能力で大学まで有能選手として活躍。
オリンピックにも出場し、プロの世界へ、と思ったところ、その身体検査で右ひじの靭帯がないことが判明し、プロへの道が閉ざされそうになります。

しかしスカウトした球団は契約破棄しようとしていたのを押し留め、最初は81万ドルで提示されていた契約金を7.5万ドルという破格の引き下げにして彼を受け入れました。

彼は言います、それからずっと自分のは欠陥品なのではないか、と思っていた、と。

マイナーリーグではそれなりの成績を残すものの、メジャーリーグでプレイする機会があっても、そのチャンスを物にすることができずほぼ10年の月日が経ち、何度も野球を辞めることも考えます。

そのうちこのままではピッチャーとして有益ではないというところまで落ち込んだ彼に、チームはこういいます。
「ナックルボーラーにならないか?」と。

ナックルとは曲げた指の関節のことなのですが、つまり普通の投球がボールをつつみ込むように握るのに対し、ナックルボールは関節を曲げた形でボールを握り、ボールを突き放すような形で投げる送球のこと。

普通はボールに回転がかかりますが、ナックルボールにはそのスピンがまったくなく、変わりに左右に揺れるような不規則な動きをすることから、キャッチャーでさえもボールを捉えにくいほど、打ちにくいものとされています。

彼はもともと彼のおじいさんからこのナックルボールを幼いころに教えてもらっていたようで、以前からたまにナックルボールを投げていました。

それをメインの投球としてまた一からやり直さないか、というのがチームの言い分でした。
とはいえ、それは「やってみないか」という示唆というよりは、そうしなければ、チームはもう彼を投手として抱えることはできないという、彼にとって受け入れなければクビ、というものでした。

30歳を過ぎてから、何年も親しんだ投球を変え、ナックルボーラーとして再出発すると言うのは、もちろん簡単なことではありません。

ナックルボールは非常に打ちにくい球ではありますが、同時に取得するのがとても大変な送球でもあるからです。

が、ナックルボーラーであることの利点は普通のピッチングに比べ、肩や腕、肘にかかる負担が少ないのでかなり長い間投手として活躍することができます。

彼は往年のナックルボーラー数人に指導を仰ぎ、数年かけてナックルボールを習得していきます。

その間にも夫婦間の問題もあり、一時期は自ら命を絶つことを考えることもありました。
ずっと誰にもいわずに閉じ込めていた幼児期のことも、彼を苦しめていました。


メジャーリーグと言う輝かしい舞台で先発投手として活躍すると言うこと。
去年はリーグ内で一番の投手に贈られるサイ・ヤング賞も獲得した彼が、ずっと受難のマイナー時代を過ごしてきたと、誰が想像するでしょうか。

多くの選手はマイナーリーグから駆け足でメジャーリーグへの階段を駆け上り、もちろんそれなりの失敗や苦労もしつつも、メジャーでプレイすることができます。

でもディッキー選手にとっては、30歳を越えてからが彼のメジャーリーガーとしてのピークを迎えたのです。

この本は野球に興味のない人でも、面白く読むことができるんじゃないかな、と思います。

前にいった通り、この本は輝かしい功績を誇らしく綴ったものではありません。
それどころか、彼は自分の気持ちにとても正直に自分がいかに弱く、不安であったか、ということを記しています。

私たちの想像するメジャーリーガーのタフガイというものとは違うその一面。
普通の夫であり父親としての思い。
試練続きの彼を支えてくれた神の存在。
一人の人間として、過去から解放されるまでの道のり。

彼が「メジャーリーグで一番興味深い選手」と言われるのも頷けます。

この本を読んでから彼のプレイを見ると、また面白いんじゃないかなあ、と思います。

といっても、シーズンはもうすぐ終わっちゃいますけれど・・・

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